レンシオーニ「チームの5つの機能不全」モデル

チーム分析

パトリック・レンシオーニ(Patrick Lencioni)が提唱したこのモデルは、チームの機能不全を心理的・感情的な側面から階層的に捉えます。機能不全はピラミッドの下層から積み上がり、最下層の「信頼の欠如」が解決されない限り、その上の階層も機能しないと考えます。

心理的ピラミッド

信頼の欠如(Absence of Trust)

  • 根源: このモデルの土台であり、すべての機能不全の根源です。
  • 状態: メンバーが自分の弱み、失敗、間違いを隠し、助けを求めることをためらう状態。これは心理的安全性の欠如を意味します。
  • 影響: メンバーがお互いを信用できなければ、次のレベルの「衝突」を起こすことはできません。

衝突の恐れ(Fear of Conflict)

  • 発生要因: 信頼の欠如の結果、メンバーが建設的な意見の対立や議論を避けてしまう。
  • 状態: チーム内に「仲良しクラブ」のような表面的な調和が保たれる一方で、アイデアや問題に対するオープンで情熱的な議論が欠如する。
  • 影響: チームは重要な問題やリスクを回避し、最善の解決策にたどり着くことができません。

コミットメントの欠如(Lack of Commitment)

  • 発生要因: 建設的な衝突(議論)を避けた結果、全員が心から納得していない、あるいは曖昧な決定が下される。
  • 状態: メンバーは決定事項に対し「自分の意見が反映されていない」と感じ、実行に対する責任感主体性を持てない。
  • 影響: 実行段階で迷いや遅延が発生します。

責任の回避(Avoidance of Accountability)

  • 発生要因: コミットメントが不足している結果、メンバー同士が互いのパフォーマンスや行動に対し、相互に注意やフィードバックを与え合わない。
  • 状態: メンバーは「自分の責任ではない」と感じ、チームの基準が守られていなくても見て見ぬふりをする。
  • 影響: チームの規律が緩み、基準が低下します。

結果への無関心(Inattention to Results)

  • 最終結果: 最上位の機能不全であり、下層のすべての問題が積み重なった結果です。
  • 状態: メンバーが個人的な目標やキャリア、あるいは部門のエゴを優先し、チーム全体の共通目標の達成を最優先しない。
  • 影響: チームが一体感を持って目標に向かわず、組織全体の成果が上がらない。

レンシオーニモデルの長所(Pros)と短所(Cons)

レンシオーニモデルは、チームのパフォーマンスを決定づける心理的な土台に焦点を当てた点で画期的ですが、その性質上、「仕組み」や「定量化」においては限界を抱えています。

長所(Pros):レンシオーニモデルの強み

長所詳細
根本原因の明確化すべての機能不全が「信頼の欠如」という一つの根源から始まると定義することで、複雑なチーム問題をシンプルに理解し、解決の着地点を明確にできる。
心理的安全性の強調チームの成果(結果)よりも人間関係の土台(信頼)の修復を最優先させるというメッセージは、現代の組織開発における心理的安全性の重要性を最も強く訴えるものとして機能する。
感情的側面の可視化IMOやGRPIが抽象的になりがちな人間関係(I)の課題を、5つの階層に分けて具体化することで、チーム内での対話や自己診断が容易になる。

短所(Cons):レンシオーニモデルの限界

短所詳細
仕組み(プロセス)への介入不足「信頼」が回復しても、意思決定や会議の進め方といった具体的なルールや仕組み(P)が未整備であれば、チームは効率的に機能しない。モデルは主に感情にフォーカスしており、仕組みの設計については言及が少ない。
「Input」の考慮不足チームメンバー個々の潜在的なスキルや適性(Input)が、その役割にミスマッチしていることが原因である場合、信頼関係を深めても根本的なリソース不足は解決できない。
定量化の難しさ「信頼」や「衝突の恐れ」といった感情的な要素が分析の中心となるため、客観的な数値に基づく測定や、効果の定量的な検証が難しい。

IMO・GRPIモデルとの関連性

モデル分析の切り口レンシオーニが果たす役割
IMOメディエーター(M)IMOのMに課題があるとき、それが「信頼の欠如」という深層に起因しているのかを分析する。
GRPI人間関係(I)GRPIで「Iに問題あり」と診断されたとき、「信頼の欠如」から始まる5段階のどこにいるかを特定し、解決の道筋(下層から)を示す。

レンシオーニのモデルは、チーム分析において、心理的な健全性論理的な仕組み(IMOのMやGRPIのP)に先行して解決されなければならないという、強力なメッセージを提示しています。